伊月先生は、私の言葉にやはり眉を少し潜めた。
でも、それはすぐに眼鏡の奥の奥に消え
「それでは、行きましょうか。」
チラリと腕時計を見て、そう言った。
…HRってやつか。
わざわざ前に立って自己紹介する、その面倒な時間が来ることに内心で大きなため息をつく。
そう思ったって、行く他ないのに。
私が頷いたのを確認して、伊月先生はチョコレート色の扉を開ける。
「…花城さん、良い学校生活を。」
そう、今までで一番の優しい笑みで言う矢生校長先生に軽くお辞儀をして後に続いた。
廊下に出ると、伊月先生は黙々と歩き進む。
他の生徒が見えないのは、校長室が校舎の中でも奥まった場所に位置するからだろう。
現に、今朝の彼に案内して貰わなければ辿り着けないような、迷路のように広い校舎であるし。

