黒い花




その人はとても静かな目で私を見つめ、少し冷たい印象を与えた。

矢生校長先生と真逆な反応。
なのに、自然とこの人も"私を知る人"だと分かった。


それは────



「…お待たせしました。」

そう静かに伏せた眼差しに、期待と諦めの色がチラついていたから。


「はじめまして。私が担任の伊月凰(いつきおうおう)です。」



そう言った時の出席簿を持つその手が、僅かながらに




……震えていたから。



どうして、私を知る人はこうも隠すのが下手なんだろう。

───…どうして、とても大切な存在だと言う表情をするのだろう。


「はじめまして、花城あまねです。」


それでも。
それが酷なことであることがもう分かるのに、私は何も無い私のままであり続ける。