今日、私は初めての遊園地に来ていた。

 理由は黒川正人にお礼をする為だ。

 「当然だけど、神山さんの私服姿って始めて見た。可愛いね」

 衆人観衆の中でヘラッと笑いながら言うものだから私は頬を赤く染めてしまった。

 そんなことを言われ慣れていないのだ。

 今日の私は花柄のワンピースを着ている。

 裾野丈は膝より少し上だ。

 黒川正人はストライプのTシャツに深緑の上着を着ている。

 とてもラフな格好だけど、それが自然体でよく似合っていた。

 「なんかさ、俺達ってお似合いの恋人みたいだね」

 「っ」

 この男はさらっと何を言っているんだ。

 「今日は、お礼のつもりで」

 「勿論、神山さんがそのつもりで来てくれたことは知ってるよ。

 てか、俺が無理やり約束をしたんだし。

 でもさ、そういうのを当然だけど周りの、今遊園地に来ている奴らは知らない。

 そういう知らない奴らからしたら俺達って恋人に見えるんじゃないのかな?

 男女一組の人達を見たら普通はそう邪推するものじゃない?」

 「・・・・・黒川君がそんなに冗談好きだなんて思わなかった」

 「あははは。壁はまだ厚いか。

 俺、よく冗談は言うよ。神山さんは知らなかった?

 まぁ、俺が同じクラスなのも知らなかったしね。

 俺も今日、神山さんの私服姿が可愛いって初めて知ったよ。

 いいよね。そういうのを積み重ねてお互いのことを知っていこうよ。

 折角同じ学校、同じクラスになれたんだしさ。

 まぁ、取り敢えずまずは折角来たんだから楽しまなきゃね」

 「えっ?ちょっと」

 そう言って黒川正人は私の腕を引っ張って走り出した。

 初めての遊園地、初めての乗り物

 あろうことか、この男は最初の乗り物にジェットコースターを選んだ。

 あんなに急下降するものを私は初めて乗った。

 勢いに意識が持っていかれるかと思った。

 CMで何回か見たことはあるけど、実体験はやはり違う。

 あれは人の乗る物ではない。

 だいたい、あんなに高い所から落ちたり、捻ったりするのに体を守るものが鉄の棒一本というのは如何なものだろうか。

 何度か体が浮きかけたよ。

 そういう浮遊感を楽しむ乗り物なのかもしれないが、私には無理だ。

 「あれ、もしかして神山さん、絶叫系苦手だった?」

 足元がふらつく私と違って黒川正人はとても元気だった。

 「・・・・そうね。ちょっと涼しいに行きたいかも」

 「涼しい所ね。OK」

 そう言って黒川正人が私を連れて行ったのはお化け屋敷だった。

 涼しい意味が違う!

 この男、絶対に私で遊んでる。



 この日は、初めてのことばかりで余裕がなかったのか、それとも存外楽しすぎて気づかなかったのか分からないが周りが私をどういうふぅに見ているのか全く気にならなかった。

 奇異の目で見られるこの容姿のことすら私は忘れていた。

 そんなことは生まれて初めての出来事だった。