「ねぇ瞬ちゃん」

「んー?」

「珍しいよね、瞬ちゃんが女の子を苗字で呼び捨てすんのって」

「そうか?」

「あず先輩は彼女だから『あず』だけど、他の子はみんな苗字に『さん』付けで呼んでるじゃん」

「あー、そうかもね」

「わざとなんでしょ?モテるから、特別な人しか名前で呼ばないようにしてんでしょ」

「そんな自惚れてねーよ」


風の中を漕ぐ自転車に、体が温まってくる。

いつもよりもペースを落として、瞬ちゃんに合わせて走る自転車の速度はやっぱり俺には物足りないけど。

いつも周りを見てるこの男には、きっとこのスピードが丁度いい。

そんな風に周りを見て常に色んな状況を把握しているこの男が、自分がどれだけモテるのかをわかってないはずがない。


「微妙だね」

「え、なに」

「なんでもない」



微妙だよ。

名前でもなくて、『さん』付けでもない。

人当たりはよくて誰とでもすぐ打ち解けるくせに、きっちりと線を引くこの男が。

微妙なこと、してる。


なんで?

美香は瞬ちゃんにとって、他の女の子とは違うの?

『さん』付けする女子とは、なにが違うの?


「ねぇ俺、あず先輩好きだよ。かっこいいし、テンション合うし」

「そりゃどーも」

「でも俺、美香の友達だから」

「………」

「………」

「え、だからなに?」

「……だから」

「うん」

「風邪、引かせないでよね!」

「……。」

「………」

「は?」