きっと嘘はついてないんだと思う。
いちかさん、勉強道具持ってるし。
でも……
だけど……
「……いつも、こういう感じなんですか?」
「え?」
この間のカレーのときだって、慣れた様子で入ってきてた。
料理が出来ない先輩に、当たり前みたいに差し入れを持ってきてた。
いつもいつもいつも、こうやって訪ねて来るのが当たり前で。
いつもいつもいつも……この人は先輩の近くにいたってこと。
3年間、ずっと……
「、…」
たまらずに、いちかさんに背を向ける。
そのあとはもう、無我夢中で階段を駆け下りた。
だって、いられない。
いちかさんの傍には、とてもじゃないけどいられない。
私は知らなすぎる。
瞬先輩のことを、なにも知らない。
試験が近いことだって、教師を目指していることだって、いちかさんとの3年間だって。
あの人が当然のように知っていることを、
私は何1つ知らないんだ。
───“自分の知らない美香をいっぱい知ってる男は気に食わない”
「、…」
私も同じだ。
自分の知らない先輩を知っている人は、気に食わない。
私がいちかさんに感じる痛みと、瞬先輩が章くんに感じる痛み。
それは全部、同じなんだ……


