“だからさー”
一向に聞こえてこないその続きを待つように、先輩の背中をじっと見つめた。
「ただの友達なら、会おうが電話しようがなんだっていいし、束縛なんかしねぇよ」
ドアの前で立ち止まった先輩が、やっと続きを話してくれたのに。
こっちを向いてくれないから、また表情が見えない…
「でも美香と“章くん”、違うじゃん」
いつもより低い気がするその声は、怒っているから?
それとも、私の気のせい…?
「違うって…」
「昔から友達以上のこと相談して、高校辞めるときだって2人で駆け落ちするみたいにいなくなって。黙って姿を消した2人がただの友達って……普通に考えたら、そんなわけなくね?」
「、…」
そんなこと言われたって、章くんは本当にただの友達なのに。
じゃあ、どうすればいいの…?
もう二度と会うなって、本気で思ってるってこと?
「俺には入ることの出来ない線が、お前らには昔からずっとあるんだよ」
「、…」
そんなの、ないのに。
「……っ」
さっきまでの幸せ気分から一変、不穏な空気に息が詰まりそうだ。
「……ごめん、ちょっと頭冷やしてくる」
寝室のドアが閉まると、その数秒後には玄関から先輩が出て行く音が聞こえた。
もう二度と、章くんに会わない。
そうすれば、瞬先輩を不安にさせることはない?
でも、章くんには今まで散々助けてもらったのに、そんなこと…
そんなこと、私にできる…?