「まだ熱あるし、タクシーで送るわ」
「いや、あの、私1人で帰れます」
そう主張したのに。
「……」
「…?」
無言のまま数秒私を見た先輩が、病院の前に止まっているタクシーのほうへ歩き出した。
後部座席のドアが開いてそこに私を乗せたあと、先輩が隣に座り込む。
「住所、どこ?」
「あの、1人で、」
「住所」
「、…」
半ば強制的に、住所を言わされて……
タクシーはすぐに、走り出した。
「……」
膝の上を、ぼんやりと見た。
景色なんて見る余裕もなくて、俯くみたいに自分の膝をただ見てた。
なんとなく、思い出す。
前にもこんなことがあったなって……
高校生の頃、生徒会室で倒れた私を瞬先輩が保健室に運んでくれて、そのあとも今みたいに家まで送ってもらったなって。
あの頃は自転車の後ろに乗せてもらって、ドキドキしたっけ。
懐かしいな……
「前にもあったよな、こんなこと」
「、…」
同じことを思うその言葉に、思わず顔を上げて先輩を見た。
先輩は窓枠に頬杖をつくように、ただ外の景色を眺めて笑ってる。
懐かしいあの日を見ているみたいに、笑ってる……


