「とうちゃーく」
自転車がブレーキをかけて止まったのは、私の家の前。
時刻は夕方6時過ぎだ。
「ありがとうございました」
「いえいえ」
自転車の後ろから降りて、先輩にお礼を告げる。
小さく会釈して顔を上げたら、「じゃあまたね」って笑った先輩の足が、ペダルを再び踏みしめていく。
走り出す自転車が、どんどん遠くなっていって……もう既に、寂しい。
今日は金曜日だから、次に会えるのは月曜日かな。
明日も明後日も、ほんとは毎日会いたいな。
ずっと一緒にいたいな……
先輩の姿が見えなくなって、小さく肩を落としたあと。
気を取り直すように新鮮な空気を吸い込んで、家のドアを開けた。
一歩、玄関に足を踏み入れて気づいたのは……見覚えのない、靴。
男の人の、革靴。
一瞬、お父さん?って思ったけど……
奥のリビングから、お母さんの声が聞こえて。
「ねー、今日泊まってくでしょー?娘帰ってきてもどうせ部屋に閉じこもってるだけから泊まってってよー。それか帰ってきたら友達の家行かせるからー」
「、…」
一歩踏み込んだ足は、そのまま後ろに、一歩、下がった……
引き返すように、家から離れていく。


