「美香、傘持ってる?」

「えっ」

「あ、持ってない?」

「持っ、てる、かも……いや、持ってない、かも」


どうしようって考えてたら、曖昧な言葉しか出てこない。

だって傘、あるけど、でも。


「じゃあ俺、雨止むまで生徒会室で時間潰してようかな。七瀬、気を付けて帰れよ」

「え、」


なにかを言おうとしたときには、先輩の背中はもう歩き出していて。

なにも言えずに開いた口が、閉じることなくその背中を見送った。



「……」



別に、落ち込むことはない。

落ち込む理由はなにもない。


ただ、雨が降って、傘があって、先輩はなくて……


それでただ、一緒に、

帰れるかなって……


ただ、それだけだもん。


「美香ってあーいうのがタイプなんだ。意外だね」

「……」

「つーか美香らしくないよね。男の隣で恥ずかしそうにしてんのとか、今まで一度も───」

「タイプじゃない!」

「……」

「彼女いる人に興味ないから」


鞄から傘を取り出して、玄関のドアを押し開ける。

外に出る寸前に傘を開いて、章くんなんて置いていく。


「待てって」

「はっ!?なにその傘!」


隣に来た章くんの真上に、青い傘が広がっている。


「持ってないなんて、いつ言った?」

「っ!」


なにそれ!

なにそれなにそれなにそれ!