「あの、私、大丈夫です」

「え、大丈夫って…」

「抗議とか、しなくて大丈夫です」

「ちょ、なに言ってんの美香ちゃん」

「私が道に迷ったのが悪いので、ほんと、大丈夫です」


私の主張に、みんなからは納得いかないような空気を感じる。

だけどこればっかりは譲れない。


確かに、あの先生のことはむかつくけど……

それよりも、お母さんに鬱陶しがられたくないっていう気持ちのほうが、私の中では大きいから。


「まぁ七瀬がそれでいいなら、無理強いはできないけど」

「なんだよ、なら昨日のうちにイズミンにあの野郎フルボッコにしてもらえばよかった」

「それは大丈夫。半分したようなもんだから」

「したのかよ」

「さすが元レディース」

「やめてよそのガセネタ」



窓に流れる景色を見ながら、みんなの声を聞いていた。

緑溢れる癒しの景色は、時間と共に馴染みのあるいつもの街へと変わっていく。


また、いつもの毎日が始まる。

また、いつもの場所から始まる。


景色が、時間が、私をどんどん帰りたくない場所へ運んでいく。


もうすぐ、見覚えのある交差点。

あの信号を曲がって、ホームセンターを越えて、ガソリンスタンドの先……


もう、あっという間に……


帰りたくない場所へ、私は帰らなきゃいけないんだ。