「ちゃんと掴まってないと落ちるよ」
「はっ、はぃ!……ゲホッゴホッ!」
「大丈夫?」
「大丈夫、デス、…今のは、返事張り切りすぎてむせただけです」
「なにそれ、どんだけ張り切ってんの」
「せめて返事ぐらいはちゃんとしなきゃって……」
「はは、なんだよそれ。んじゃ、早く掴まって」
「はい…」
掴まらなかったら、絶対に落ちる。
だけどどこを掴めばいいのかわかんなくて、両手の平が、宙で彷徨う……
腰を持つ勇気なんてないから……無難に、肩?
「これでいいですか?」
グレーの肩に手を置いて、聞いてみる。
「おっけ!」
少しだけ顔を向けた瞬先輩の横顔が……笑ってた。
「んじゃ、行くよ」
「はっ、はい、よろしくお願いします!」
「よろしく了解しましたー!」
陽が沈み終わった、空の下……
瞬先輩が力強くペダルを踏みだすと同時に、自転車はゆっくりと動き出す。
踏みしめて踏みしめて踏みしめて、速度がどんどん上がっていく。


