「セイレーン」

授業が終わっても私は図書室にいることが多い。

下校時刻になるとマリンは真っすぐ邸に帰るタイプなので放課後は一人になる。

一人、本を読んでいるとディアモンが来た。

「何でしょうか、ジュノン様」

私の言葉に彼は傷ついた顔をする。

「もう、名前では呼んでくれないのだな」

彼は何を言っているのだろう。

「私はもう婚約者ではないので」

「そう、だったな」

ディアモンは俯いたまま黙ってしまった。

「あの、何か用があったんじゃないんですか?」

「あ、いや、その」

何度かディアモンは言おうと口を開いては閉じるを繰り返していたが結局「何でもない」と言って行ってしまった。

いったい何の用だったのだろう。

まぁ、どうでもいいか。

そんなことよりも私には重要なことがある。

貴族の令嬢がつける職業についてだ。

私はアドラー伯爵家の一人娘なので家を継ぐ可能性もあるけど、私は魔力なしなので養子をもらう可能性の方が高いだろう。

そうなるとやっぱり一人で生きて行く方法を探す方が良い。

「数は少ないけど文官をしている人もいるのね」

いろいろ調べているとあっという間に下校時刻になってしまった。仕方がないので続きは明日。

本当は本を借りて帰りたいけど私が働くつもりだと使用人にバレて、父に報告されても困る。



◇◇◇



「セイレーン」

またか。

翌日、再びミアが接触してきた。いったいディアモンは何をしているのだろう。

このまま無視をしてしまおう。

私は目の前に立つミアを無視してその横を通り過ぎる。

ミアは自分が無視をされると思っていなかったみたいで私が横を通り過ぎるのを見送ってくれた。

「ちょっ、ちょっと待ちなさいよぉ」

慌てて追ってきたミアを無視して私は校舎の中に入る。

痺れを切らしたミアが私の腕を掴む。

「昨日、ディアモンと一緒にいたでしょう。私、見てたんだからねぇ」

「図書室でたまたま居合わせただけよ」

「うそぉ。人の婚約者を取ろうとするなんてはしたないと思わないのぉ」

最初に盗ったのはミアの方だ。それを棚に上げてミアはぎゃあぎゃあ騒ぐ。

「ミア」

ミアの騒ぎを聞きつけたのか、ディアモンが駆け足で来てくれた。

ミアは嬉しそうにディアモンに抱き着こうとしたけどディアモンが拒んだ。

ディアモンはミアを真っすぐ見つめる。

「ミア、俺はセイレーンとやましいことはしてない。セイレーンは君が思っていような人ではない」

ミアはキッと私を睨みつける。

「どうしてセイレーンを庇うの?ディアモンはミアの婚約者なのに」

「庇ってなんかいない。ただ君の行動はあまり褒められたものではない」

ディアモンは優しくミアを窘めるけどミアは聞きたくないと首を左右に激しく振る。