やわらかな檻



 私を苛める時の慧はことのほか楽しそうだ。

 まるでちっぽけな鼠を玩具にして追い詰め遊ぶ、美しい猫。


「それで、取り置きの花も売ってしまったと」


 帰って来た私を脅迫交じりに自分の膝の上に座らせ、有無を言わさず白状させた結果がこれだった。

 学園祭二日目の打ち合わせがあるせいで時間が遅くなり、慧の予定とずれて迎えに行けなかったのも不満だったらしい。

 運転手さんだけで十分だと何度も言っているのに。


 あの時、私は小母さまを追いかけ呼び止めて、慧のために取っておいたシオンの花束を渡した。

 お客さま一人を特別扱いするなと同じ売り子は当然として、本来なら治外法権である先生にまで怒られたが後悔はしていない。