やわらかな檻

「仕事がありますので」

「そう? 残念」

「花束の中でもシオンは一番人気ですし、この時間だともうないかもしれません。急ぎましょうか」


 慧に頼まれた分は学園祭が始まる前に取り置きしてあるから心配ないが、公開が終わる二時間前となれば花束はそろそろ売り切れる頃。

 私と小母さまは出来る限り足を早めた。



「……ないの? シオンだけじゃなくて、他の花束まで?」


 手を止めて出てきた後輩は「すみません」とうな垂れて、ちらりと売り場に視線を投げる。

 花の種と苗はまだ残っているが、メインの花束だけ見事に全部なくなっていた。

 否、売り切れていた。