遊び道具を受け取って床に置き、腕を伸ばして箱を示す彼女の、純粋な善意しかない、期待に輝く瞳には蒼白な僕の姿も歪んで映る。

 傷つかない言葉を選ぼうと考えるより前に強張る口が動いた。声が武器になるなら氷の刃で貫いていたかもしれない。


「……要りませんよ」

「そんなこと言っちゃダメ。一緒に飾りつけよう? ライトがピカピカしてね、すごく綺麗になるのよ」


 行こう、と誘い掴もうとする手を反射的に振り払っていた。僕の血管が浮いたそれと違ってこんなに健康的で柔らかくて、力強く扱えば壊れてしまいそうな少女の手なのに、


「要りませんって」

咄嗟に力の差を考える余裕もなかった。


 彼女の手が小さく揺れて、ぽふん、とダッフルコートに包まれた太腿を頼りなく叩く。音からするとそれほどの衝撃は無かっただろうが、僕の大きな拒絶を感じ取ったらしかった。

 横っ面を叩かれたようにくしゃりと顔を歪ませて、それから瞳の表面を潤ませる。次ぐ言葉は言い訳だった。


「……せっかく、慧のために持ってきたのに。お家にないって言うから」


 俯く顔を見る為に膝をついて身長差を埋めようとは思わなかった。

 あくまで傲慢に、頤に指先を添えて持ち上げて、無理に視線を合わせると逃れようとでも言うのか、いやいやと頭を左右に振る。

 彼女を捉える手に力が篭った。