やわらかな檻

 破天荒な一言が良くも悪くも全て吹っ飛ばして、おかげでゼロの状態になれる。

 冷静になって考えてみれば答えは一つだった。私の我侭と慧や両親が私を思ってくれる気持ち、天秤にかければすぐに傾く。


「嫌に決まってるじゃない」


 残念、と悪魔のささやきが聞こえた。



 車に乗り込んでから気付いたことがある。慧は傘と財布を抜かせば手ぶらだった。

 長袖シャツにポケットはないし、ジーンズの二つついている、もう片方にビニール袋か何かが入っている様子もない。

 それは要するに、慧は貰った書類を激しい雨から守ろうとする気はさらさらなかったということで。


「書類は取りに行かなくても良かったの?」


 おそらく、書類云々の話自体が私のための嘘だったのだろう。

 半ば勝利を確信して尋ねると、同じ後部座席で隣に座る慧はいささか大げさに目を見開いた。
 どうやら押し通す気でいるらしい。


「……忘れてしまいました」


 忘れた、ね。口内で何度か反芻して、望む展開に持っていくために有効な言葉を引き出す。