やわらかな檻

 何か的外れなことを言ったのではと心配してしまうほどに長く長く、息を吐いて。

 慧はひどく嬉しそうに――と言っても、見慣れている私だからこそ分かるごく微妙な変化だったが――微笑んだ。

 心からのものだったと思う。苦笑でも社交辞令の愛想笑いでも、人を意のままに従わせたい時に使う魔性の笑みでもなく。


「その気持ちと同じですよ。貴女のご両親も私も、貴女が大切だからこそ濡れさせたくないんです。私に否はありません。……行きましょうか」


 そして思い知らされた。

 慧の言葉を聞いて、嬉しいと思う以前にがっかりしてしまう私は子供だった。

 本当に心配だったなら、慧の気持ちなんて聞かずに一緒に車に乗ってしまえば良かった。

 それなのに小さなことを言い訳にして、話を長引かせて。自分の願いを慧のせいにしたがった。


 認めて、しまいなさい。
 ぐるぐると頭の中、そればかりが占領する。

 いつまで経っても動こうとしない私に、慧は無言で目を細めると屈んで私の耳元に顔を寄せた。


「早く来ないと無理やり攫いますが」


 背筋をぞくりとさせる声音に本気を感じ取った。