やわらかな檻

 だからって、わざわざ徒歩で迎えに来てくれた慧を無下にするのもどうかと思う。

 どうしようか迷って見上げると、慧は珍しくも男に微笑を向けて労った。

 次には私の背中をそっと押して、まるであちらに行くようにと。


「良かったですね。この雨の中、歩いて帰るのは中々に大変ですから」

「ありがとうございます。車は停めてありますので、お手数おかけしますが駐車場までご同行願えますか?」


 穏やかそうに見える慧と、任務が遂行できてホッとした様子の彼。

 とんとん拍子に決まっていく話に追いついていけないのは私だけだった。

 引っかかるのは、素直に迎えを喜べないのは何故だろう。

 現れる直前に慧としていた会話が頭にこびりついて離れない。

 先に一歩踏み出しかけた慧を、シャツの袖口を握って引き止めた。


「……慧は、それで良いの」
「一般的に考えて、車の方が楽ではありませんか?」


 そんなのは答えになっていない。

 誰でも納得出来る正論じゃなくて、私は慧の気持ちを知りたいのに。

 このままでは美しい微笑みにはぐらかされてしまうと感じ、言い方を変えて再度尋ねた。