やわらかな檻

 もしかして、先ほど私に触れるのを止めたのはこのせいだろうか。


「濡れてるよ、体も冷えてる。風邪引いちゃうわ。……どうして、車で来なかったの」


 例えワガママな子供の発言――どうせ迎えに来てくれるなら車が良かったのに、と聞こえようとも、私の中では心配から出た言葉だった。

 車ならばここまで濡れなかったはずだ、と推測したのだ。

 けれど膝を曲げて私と目の高さを合わせ、慧は申し訳なさそうに謝った。


「残念ながら、車と運転手を自分の判断一つで動かせる権限は私にはないんです。免許は十八にならないと取れません。車でなくてすみませんでした」

「違っ……!」


 そういう意味で言ったんじゃない。

 どうにかして伝えたかったが、結局私が弁解を重ねることは出来なかった。

 ばしゃばしゃ水を跳ねさせて走ってくる足音と、私でも慧でもない別の声に邪魔されたからだった。


「お嬢様!」


 お嬢様とは、私のことを指していた。