やわらかな檻



 茶道で使う扇子が近くにあったから、ノッてくれることを期待して言ってみた。


「匠、お主も悪よのぅ」
「……貴女ほどではないと思うよ」


 疲労を隠さずに恨みがましげな目を向けてくる、血の繋がらない甥……兄弟の兄の方からフッと視線を外す。

 十年以上頼ってきたくせに生意気よ。

 誰のために毎年シオンの花を買いに行ってると思ってるのかしら。

 開けっ放しにしている襖からさりげなく廊下の様子を覗くと、タイミングよく小夜さんが新月の間に入っていくところだった。

 こっちは気付かれてないみたい。


「連絡不足なのがいけなかったんだわ。私のせいじゃないもの」