「――じゃあ、愛の挨拶から行くか」

「は、はい……っ」

ドクドクと心拍数が上がり始める。
緊張で、指も手も震える。
これで、平常心で弾けなんて無理な注文だ。

「テンポはこれくらいで」

そう言って、二宮さんがピアノを軽く叩く。タンタンタンと一定のリズムを刻む音がした。

落ち着け、落ち着け。
指の震え、止まれー―!

二宮さんの指が構えられる。
息を合わせるために、二宮さんが私に目で合図を送る。

ちゃんと、弾かないと――。

どうしても力が入ってしまいそうな身体から、無理矢理力を抜こうとした。

二宮さんが弾く、伴奏から始まる。
それは、単純なリズムで始まる。だけど、そのシンプルな音型だからこそはっきりと分かる。

特別な人が弾く、特別な音だ。
思わず聴き入ってしまいそうになって、すぐに自分の演奏に意識を集中させる。

プリモの私は、まず、片手でメロディーを奏でる。最初から、誰もが一度は耳にしたことがあるだろう有名なフレーズから始まる。
伴奏を耳にしながら、柔らかな旋律を奏でる――。

「ちょっと、待て」

出だし数小節で止められた。
びくっとして、鍵盤から指を離した。