君の音に近づきたい


ほ、本当に、私が選ばれたの――?

掲示板に貼られた一枚の紙を、この目で確かめる。

” 第50回 聖ヶ丘祭 ステージ企画 連弾オーディション 選考結果

1-B 桐谷 春華

上記の者を、連弾演奏者とする。"

(……どうしてあの子が? 一体、どんな手を使ったの?)
(二宮さんに、頼み込んだとか? そうだったら、サイアク)

どこからともなく、ひそやかな声が聞こえて来る。
その言葉が、選ばれたことの喜びを瞬時に遮る。

自分にどんな視線が向けられているのかと思ったら、思わず俯いてしまう。
胸のあたりでぎゅっと手を握りしめていると、林君の声が飛び込んで来た。

「――どんな手って、どんな手もないだろ。審査員の中に二宮さんはいなかった。文化祭実行委員から見て、桐谷さんがふさわしいと思ったから選ばれた。ただ、それだけのことじゃないの? 素直に、結果を受け止めたらどうかな」

「林君……」

いつもの林君の穏やかさからは考えられないような、鋭い声だった。
誰が囁いた言葉なのかも分からない中で、林君が声を上げたことに驚く。

「桐谷さんが、毎日、遅くまで練習していたのを知ってる。何も知らないで勝手なことを言うのは、桐谷さんに失礼だ」

「そうよ。選ばれた人にいいがかりをつけるなんてみっともないこと、やめたら? それでも演奏で勝負してる人間なの?」

林君の言葉に別の人の声が加わって、思わず振り返ると、香取さんが立っていた。

「桐谷さん、おめでとう。いつも頑張ってたもんね。良かったね―!」

香取さんの満面の笑みのおかげで、ようやく嬉しさが込み上げる。

「あ、ありがとう……っ」

差し出された手を、思わず掴んでしまった。

「君は正々堂々としていればいいんだ。文化祭、楽しみにしてる」

「林君も、ありがとう」

「ううん。僕の分まで頑張って。桐谷さんのこと、応援するよ」

林君だって、このオーディションのために頑張っていたはずだ。それなのに、そんな風に言ってくれるその気持ちと優しい笑みに、胸の奥がじんとする。

本当に、優しい人だ。

「頑張る。精一杯、頑張るよ」

選ばれたからには、出来る限りの努力をしなければ――。

そんな決意を新たにしながら、二人を前にして何度も「頑張る」と言った。