君の音に近づきたい



「ホント、あんたって面白いよね」

そう言って表情を崩す二宮さんに、どう答えたらよいのか分からない。
分からないなりに、自分が感じたことを伝えてみようと試みた。

「私、ショパンの曲が大好きなんです。だからかな。二宮さんの今回のアルバムを聴いていたら、この曲を心の底から弾きたいと思っているのかな、なんてことを思っちゃって。でもきっと、私がこんなことを思うのは、二宮さんの裏の顔を知っているからかもしれません。笑顔の貴公子の顔しか知らない人からすれば、疑問に思うこともなくて、きっと満足できるアルバムなんだと思います。だから、私の意見は気にしないでくださいっ!」

言葉を尽せば尽くすほど言いたいことから離れて行く気がして、結局、強引にこの話を終わらせた。
二宮さんの方に向けていた身体を鍵盤に戻し、練習を再開しようとした。

「――あんたの想像通り。俺は、ショパンの甘ったるくて感傷的な曲が大嫌いだ。俺には、何も感じない。感じるだけの経験なんてまるでしていないのに、したり顔で弾いている自分にも反吐が出るよ」

「二宮さん……」

意地悪く笑う表情でも、冷めた表情でもない。胸の奥に秘めた怒りみたいなものを感じて言葉を失う。

「――なんてな。そんなこと言ったって、どうしようもないことは分かってる。なのに、あんたが余計なこと言うから、つい、余計なことを口走った」

無理に作った笑みが、余計にその感情の深さを表している気がして。
私は、笑顔で返すことが出来なかった。

「とにかくだ。怖いなんて言ってないで、ちゃんと選ばれろよ。『選ばれるのは自分しかいない』くらいに思い込みでも洗脳でもしてやれ」

それでも二宮さんは、もういつもの尊大な二宮さんに戻っていた。