君の音に近づきたい


「……私、二宮さんの新しいCD聴きました」

あの日、結局CDショップで手にしたアルバムを買ったのだ。
そして、何度も何度も繰り返し聴いた。

「聴くなっつったのに」

舌打ちして、顔を私から逸らした。

「全部、ショパンの曲でしたね。ショパンの中でも、ゆったりとしたロマンチックな曲。優しい音色が際立つような選曲でした。二宮さんは聴くだけ無駄だって言ったけど、そんなことなかったです。ちゃんと、二宮ファンを楽しませるCDだった。音色だって、とても綺麗で曲の求める音色でした」

「だろうね」

二宮さんは、私から顔を逸らしたままそう吐き捨てる。

「――でも。何かが引っ掛かったんです。ロマンチックで甘いメロディーなのに、そこに二宮さんがいないって言うか。心ここにあらず、みたいな。上手く、言えないんですけど」

「……生意気」

「す、すみませんっ! つい。ただ、私が勝手に感じたことです」

二宮さんのピアノのことになると、つい本音で話してしまう。
本人を前にしているというのに、馬鹿正直に思ったことを言ってしまう。

「――女のファンは、ああいうのを俺には弾いてほしいらしいよ? それなのに、不満を言う女は、あんたくらいのもんだ」

どこか投げやりに、どこか他人事のように二宮さんが言った。

「不満だなんて。ただ、ほんのちょっと、そう思っただけなんです」

慌てて弁解してみても、全然意味をなしていない。