「どうしてって、そんなのどうでもいいじゃないですかっ」
自分が身の程知らずで、惨めで仕方がない。
少しでも二宮さんの音に近付きたいだなんて。
どうあがいても、この人に近付けるわけなんてなかったんだ。
夢ばかりを見ていた。
本当に、それはあまりに無謀な夢だ。
「ねえ、ちょっと、あれ、二宮さんじゃない……?」
大教室から出て来た他の生徒が、コソコソと言葉を交わしながら私たちを見ている。
腕を掴んでいる二宮さんと掴まれている私。
こんな姿を見られて、変な誤解をされたくない。
むしろ、迷惑なのは二宮さんの方だろう。
「もう、いい加減に――」
「こっちに来い」
「え、えっ?」
掴まれていた腕をそのまま強く引かれて。
ずんずんと進んで行く二宮さんに引きずられるように、校舎の外へと連れ出された。
「ちょっと、一体、何なんですかっ」
校舎裏の、小さな庭のような場所だった。
北側なのだろうか、ほとんど日は差さない。
人が来るような場所でもないのだろう。ところどころ雑草が飛び出ていて、管理が行き届いていない感じの場所だった。
それに、なぜこんなところにあるのか錆びたバスケットゴールがそびえていた。
「わあわあ騒ぐなよ。あの場にあのままいるより良かっただろ?」
私が必死で訴えていることなんて、本当にどうでもいいとでも言いたいような表情で、二宮さんはそこにあったベンチに既に腰かけている。
本当なら、私がずっと音楽を続けていく上での支えだったような人なのに。
今では、こんなにも腹立たしい。
早く解放してもらうには、二宮さんの質問に答えればいいのだろう。
私はやけっぱちで全部ぶちまけた。



