君の音に近づきたい



「待てって言ってんだろ。1年の分際で、先輩の言うことが聞けないのか?」

長身の影が私に近付いて、行く手を阻む。

「す、すみません。今は、ちょっと――」

今は誰とも話したくないことくらい、見れば分かるよね――?

公開レッスンを見に来ていたのならなおさらだ。

たった今、私が大恥をかいていたのを知っているはずなのに――。

「今はちょっと? 恥ずかしすぎて姿を消したいんです?」

ニヤリとした笑みを浮かべて私を見下ろした。

本当に、心底性格が悪すぎる!

「わ、分かっているなら、放っておいてください!」

正面に立つ二宮さんの横をすり抜けようとすると、腕をがしっと掴まれた。

「なんで――っ」

「あんた、なんでここに入れたの? いくらなんでもヘタ過ぎるだろ」

さっきの講師の言葉で嫌と言うほど分かっている。
これ以上、もう何も言われたくない。

「分かってますから。だから、もう――」

「あれが、あんたの言う、楽しくて仕方がない演奏?」

どうして離してくれないの?
二宮さんからしたら、私なんて眼中にないはずだ。
実力も知名度も天と地、いや、それ以上だ。

どうして、わざわざ声なんか掛けて来るのよ――。

「なあ、あんた、どうしてうちの学校に来たんだ」

ぐいっとさらに掴む腕の力を強め、その身体が迫る。