君の音に近づきたい


舞台から降りた瞬間に、勝手に涙が目に滲み出す。

次の順番を待っている人の憐れむような視線が痛くて、走って逃げることしか出来なかった。

一刻も早く一人になりたい。誰にも顔を合わせたくない。

あんなの、公開処刑だ。

実力のなさの烙印を公開の場で押されたようなもの。

これから先、私は一体どう過ごして行けば――。

大教室を出て廊下へと走り出す。
胸に抱えた譜面をぎゅっと握り締めて、それを支えにただ走る。

「――待てよ」

廊下の先から声がしたけれど、そんなものに構ってはいられない。
早く校舎から出てしまいたかった。

「あんただよ。桐谷春華」

え――?

自分の名前を突然呼ばれ、立ち止まる。
その声を探そうと顔を向けると、大教室の壁にもたれて立つ二宮さんの姿が目に見えた。

「な、なんで……」

「なんでって、俺もここの生徒だし。新入生に凄い奴がいるか見に来たんだよ。俺より上手い奴がいたら、今のうちに潰しておこうと思って」

今の私はおそらく、とんでもなく情けない顔をしていると思う。
そんな冗談に付き合う精神的余裕なんてない。

これ以上恥をさらしたくない。

二宮さんに答えることなく走りだそうとした。