「とにかく、あの人の音はキラキラとして私を幸せにして。だから、絶対に素敵な心を持っている人なんだって思ってた。それなのに――」
この前の練習室前でのやり取りを思い出して、また腹立たしさと少しの哀しさが蘇る。
「実際の人間性は酷かった、とか?」
「え? なんで? 香取さんも、本当の二宮さんのこと知ってた?」
香取さんは大して表情も変えることもなく、話し出した。
「そんなの二宮さんに限ったことじゃないんじゃない? 芸術家なんて優しいだけの人が出来る職業じゃないよ。自己顕示欲の塊だし、わがままだし、自分が一番だーくらいに思ってないとあんな世界で生きてけないよ」
「ジコケンジヨク……?」
香取さんの言う言葉はどれも、みんな難しい。でも、言いたいことはなんとなくわかる。
分かるんだけれど――。
「とにかく、虚像を作り上げて、お客さんに都合のいい人物になって、それでコンサートのチケットが売れてCDが売れれば、それが成功なんだから。ただでさえクラッシックのCDなんて売れないんだからさ。あのルックスを最大限に利用するのはある意味当然でしょ」
ルックスを最大限に利用して、売れればそれでいい――。
「ブサイクで実力者、容姿端麗で実力はそこそこ。さて、どっちが売れるでしょう」
香取さんが人差し指を立てて私に問い掛ける。
「それは……」
「もう、間違いなく外見がいい方が売れる! 専門家は別として、一般の人は演奏の解釈の細かいことなんて批評する気もない。麗しい人が麗しく演奏していたら、そっちの方がいいに決まってんだから」
「それじゃあ、二宮さんが実力がないみたいな言い方じゃないっ!」
気付くと、私は声を荒げていた。



