君の音に近づきたい



何が、”笑顔の貴公子”だ。
何が、”いつも笑みを絶やさない温かな人間性が生み出す、切なくも優しいメロディー”だ。

心の中で悪態をつきながら、最新号の音楽専門誌をめくる。

つい最近リリースになった二宮さんのCDのプロモーションなのか、雑誌の表紙を飾り特集が組まれていた。
二宮さんがCDを出すのはかなり久しぶりだ。

これじゃ、まるでアイドル……。

見開きのページの片方は、二宮さんの顔のアップ。反対側は、どこかの教会のような場所で佇む、全身の立ち姿。
色素の薄い柔らかな前髪がほんの少し目にかかる。
甘く優しそうな微笑み。ホント、まるで王子様。
読者に向けて、甘い甘い笑顔を向けている。

この写真で、また、一体何人の女の子を虜にするのだろうか。

――僕がピアノを弾き続けられるのは、聴いてくださるファンの方がいらっしゃるから。皆さんの応援がすべて励みになっています。皆さんのくださる応援が僕を笑顔にする。そして、そんな僕が少しでも皆さんを笑顔に出来るのなら、僕はこれからもずっとピアノを弾いていける。
自分のためではない、誰かのためのピアノだと思っています。その誰かは、僕にとってファンの皆さん一人一人です。

何が”ファンの皆さんの応援が励みになってる”だ。心から本当にそう思っているのだろうか。

これまで勝手に見て来た二宮さんの姿が、ガタガタと崩れて行く。

本当の二宮さんは、こんなに優しい笑顔なんてしませんよーだーー。

写真の中で微笑む二宮さんを睨み付ける。

「何をぶつぶつ言ってるの?」

「あっ、香取さん」

香取さんが自分の席に戻って来たみたいだ。
雑誌を覗き込まれて、少し気まずい。

慌てて閉じようとしたけれど、香取さんの手のひらが押さえた方が早かった。

「二宮奏ね……。桐谷さん、ファンなんだっけ?」

「ファンっていうのとは、ちょっと違う!」

「違うの? だってこの人、もうアイドルみたいになってんじゃん」

ファンーー。少し、違うのだ。

「私、二宮さんをアイドルとしてなんて見てない。顔とか、そういうのより先に音の方が身体に入って来るの。とにかく、あの音がすべて。圧倒的なの。それだけじゃない。自分自身にも影響するって言うか。憧れの遠い存在としてでなく、私もピアノを弾く人間として、同じ場所にいたいって言うか――」

それが、ここに入学した大きな理由。

「あ、熱いね……」

目の前の香取さんが、私を驚いたように見ていた。