「なに?」
「まだ、謝ってないので!」
脚は震えているのに、この手が扉を掴んでいる。絶対に離さまいと、もうやけっぱちのように掴んでいた。
「はあ?」
「勝手に覗いてしまったこと、謝ります。確かに、練習中に練習室を覗かれたら不愉快です。キモチ悪いです。本当にすみませんでした」
いつこの扉を閉められてしまうか分からない。
だから、私は必死だった。
必死に扉を掴み、喋りまくった。
この前と今日と、何も言えずにいた分の私の思いが胸にたまりにたまっていた。
「でも! 二宮さんに対してただのファンとかそういうんじゃありません。私は二宮さんの出す音が好きなんです。だから、どうしたらそういう音が出せるのか。どうしたらそんな音楽を生み出せるのか知りたくて。少しでもその音に近付くにはって、そう思ったらこんな風にへばりついてました。ごめんなさい。次からはちゃんと考えます」
勢いよく頭を下げる。
とりあえず、言いたいことは言えた、よね……?
「で、では、失礼します――」
「考えますって、何?」
そのまま逃げ帰ろうとしたら、腕を掴まれた。
「な、なんですかっ」
「次からはって、まだ、何かするつもり?」
強い力で腕をつかまれている。
「そ、それは。二宮さんが演奏しているのを聴いてしまったら、聴かずにはいられないと思うので。ただ、今回のようにへばりつくようなことはせず――」
もうしない、とは、どうしても言えない。
「俺の音が好きだって言ったな」
「は、はい」
それより、その手を早く離してください!
「あんた、ピアノ専攻?」
「そ、そうですけど……」
恐る恐る二宮さんを見上げる。こうして至近距離で接していると、二宮さんとの身長差をより実感する。



