第一楽章、冒頭しばらくオーケストラの演奏だけで進んで行く。
オーケストラが奏でる重厚な音楽が、故郷を去るショパンの覚悟を表している――私にはそんな風に聴こえた。生まれてから育った街を懐かしみ、寂しく思う、哀愁のあるメロディーが流れて行く。
そして、ピアノを待ちわびていたようにオーケストラの音量が弱まり、重低音でピアノの始まりを知らせて。
打って変わって流れる切ない単旋律のメロディーが、胸を締め付ける。

二宮さんが嫌いだと言った、感傷的で甘ったるいメロディー。

でも、今流れているそれは、まるで二宮さんの声のような音だった。

綺麗なだけじゃない。弾かされているんじゃない、二宮さんの音。

どうしようもなく胸を揺さぶる。
どこまでも続く切なく美しい旋律の一つ一つに、感情が込められて。
ショパンは、胸に秘めた思いをなかったものには出来なくて、こうして曲として溢れさせたんだ。
どうしても自分の想いと重ねてしまうからだろうか、それを二宮さんの音が奏でるから、どうしようもないほどに苦しくなった。

でも、ちゃんと最後まで、聴くんだ。

最後の最後まで、私が恋した音を聴く。




大歓声と鳴り響く拍手の音に紛れるように、私は突っ伏した。
もう涙を止める術がなくて、顔を隠すことしか出来なかった。

香取さんの優しい手のひらが、私の背中を何度もさすった。