この日起きたいろんなことが頭をぐるぐると駆け巡り、感情は昂ぶったままだった。
自宅最寄り駅を降りて、夕焼けに染まるアスファルトを見つめながら歩く。
「春華」
「あ……お父さん」
後ろから、仕事帰りのお父さんがやって来た。
「どうした。背中が丸まってるぞ?」
「うん……」
私の隣に来て、二人で家へと向かう。
それ以上聞いて来ようとしないのが、お父さんだ。決して無理強いしない。心が決まるまで待ってくれる。
「あのさ、仕事って、やっぱり責任あるものだよね……」
だから、結局話せてしまうのだ。
「仕事? まあな。いろんな人間がかかわって、大きなお金が動く。責任が伴うのは当然だな」
「そうだよね。いくらしたいことがあるからって、勝手なことは出来ないのかな……」
「何の話だ?」
不思議そうに私の顔を見る。
「二宮さんのことなんだけど。レコード会社とかいろいろあって、したいことを自由にできないんだって。利益って言うの? そういうことに関わってしまうから」
「そうだな。彼は高校生かもしれないけれど、お金をもらっている以上、責任は伴う。年齢は関係ないな」
やっぱり、そうだよね。
私、さっき、相当偉そうなことを言ってしまったのかもしれない――。
「でも、高校生であるということもまた事実だ。そのしたいことというのが、悪いことでないのなら、大人の方が理解を示してやるべきなのかもしれない。そのためにも
、自分の思いを諦めずに伝えることが大事なんじゃないか?」
そう言ったお父さんを見つめる。お父さんは優しい目で、頷いた。
「そうだね。そのしたいことは、悪いことんかじゃないんだもん。でも、何も知らない私が、偉そうなことを言ってしまったことには変わりない」
「そう思うなら、謝ればいい。伝えることが大事なのは同じだ。大切な人なら、なおさらな」
「……うん」
年下の私が、何も知らないのに勝手なことを言ったのだ。もう、嫌われたかもしれない。そう思うと心がひりつくけれど、でも逃げずにちゃんと謝ろう。そう心に決めた。



