「けど…何にもなかったことくらい、わかっています」

わたしは大森さんの背中に両手を回した。

「あの人と何にもなかったことくらい、わたしにはわかっています…」

わたしがそれ以上言わないと思ったのか、大森さんはわたしの頭をなでた。

「そう、でしたか」

大森さんは少しため息をついた。

「けど、今は言いません」

そう言った大森さんに、
「えっ…?」

わたしは顔をあげた。

「今は、乃南さんに言いません」

どうして…?

やっぱり、あの人との間に何かあったのだろうか?

そう思っていたら、
「その時がきたら、乃南さんに全てを話します」

大森さんが言った。

その時って、何?

今は言わないって、何なの?

わたしは、大森さんの言っている意味がよくわからなかった。