家に帰り着くと、屋敷の使用人達に迎えられる。
一番に出迎えるべき、あの男の姿がない。

「奏多は?」
「奏多は只今、旦那様のお部屋におります。」
「パパの部屋?何で?」
「申し訳ございません。私共にも分かりかねます。」
「そう。」

鞄を預けて自室へ向かうと、
丁度正面から奏多とパパが歩いてきた。

「あぁ、音。おかえり。じゃ、頼んだよ奏多。」
「かしこまりました。」

パパが立ち去った後、よくやく顔を上げた。

「おかえりなさいませ、音様。」
「ねぇ、パパと何を話していたの?」

部屋に入り、ベッドに腰掛ける。
奏多は私のクローゼットを開けながら答えた。

「本日の、天野川家におけるパーティの話です。」
「天野川家?って、光希の家の?パーティ?」

はてなマークでいっぱいの私を横目に、
奏多はドレスをいくつか取り出し、
どんどんマネキンに掛けていく。

何をしてるの?

「光希様から何も聞いてませんか?」

今度は靴の箱を積み重ね、まとめてまたマネキンの側へ。
光希の家のパーティって…

「あぁ。それ、私断ったわよ。」
「貴女が断る事を私が断ります。」

淡々と言い、アクセサリーの中からどれにしようかと指を彷徨わせる。

ってゆーか、一度くらいこっち見なさいよ!

「何で行かないといけないの?」

思わず立ち上がって彼の腕を止める。

彼の大きな目がやっと私を見てくれた。

ゆっくりと腕を離され、またすぐに作業に戻ってしまう。

「ねぇ、どうして?奏多。」
「楽しそうじゃないですか。」
「全然。ここで奏多にお説教される方が100倍マシ。」

勉強よりも嫌いなお説教の方がマシ。

「ははっ…お説教ですか。」
「そう。たまにするじゃない。」
「私が?いつ?」

しらばっくれて!
私が昔から、奏多のお説教で何回泣いたか。

「行かない。絶対行かない!」

私の言葉に、作業を止めて肩で思いっきり溜息を吐いた奏多。

ぎくり、としたけど
振り返った顔は怒ってなかった。

「貴女は本当に、仕方のない人ですね。」

…良かった。
奏多がそう言うのは、だいたい折れてくれる時だ。

「帰ったらお望み通り、お説教してあげますよ。」
「…は!?違う、そうじゃなくて、」
「さぁ、着替え担当を呼んできます。その中からコーディネートするように。では。」

ポカン、とする私を置いて
さっさと出て行ってしまった。

違う…
違うんだってばー!!!