ヌエさんを抱きしめながら話をしているのは、彼女の母だろうか?
大粒の涙を流しながら、小さなヌエさんを抱きしめていた。嗚咽混じりの悲しい叫びに、私の心も痛む。
ヌエさんの父は顔を真っ赤にしながら、懸命に自分の望みを娘に訴えていた。ただ、その望みは決して、自分達の為ではない。娘の平和で穏やかな生活を願う、直向きな願い。
ヌエさんの母が言っていた言葉は、私が私立中学を受験する時に、私の父が言っていた言葉と瓜二つな気がする。

「頑張る事は悪い事ではない、もし推薦に受かったら、お父さんだって嬉しい。

 だがな、ユキナ。これだけは覚えていてほしい。
 お父さんはな、お前が『普通』の生活をしてくれるのなら、それ以上の事は望まない。ちゃん
 と食べて、ちゃんと寝て、ちゃんと学校に行ってくれたなら、お父さんは何も文句は言わな
 い。
 お前の頭が良くても、頭が悪くても、推薦に受かっても、受からなかったとしても、お前が幸
 せに生きてくれる事が、お父さんの全てなんだ。」

その言葉は、今でも忘れられない。ただ、結局父の願いは、叶ったのか、それとも・・・