普通のトカゲと変わっているところといえば、足や手にある襞だろうか。その襞は常に風に靡いている様に動いている。単なる飾りではなく、襞も体の一部なのだろうか・・・?
その体は、まるで朝日に照らされた雪原の様に、藍白に光り輝いていた。よく見ると、魚の様に鱗がびっしりと生え揃っている。
でもその姿は、とても弱々しい。まるで朽ちかけている小枝の様に、今にも壊れてしまいそうなくらい衰弱してる。息も荒いし、真っ黒な黒真珠の様な目は虚空を眺めていた。
そしてしきりに、ブツブツと何かを呟いている。私が耳を近づけて、その言葉をよく聞いてみると、それが『名前』である事が分かった。

「・・・『ヌエ』・・・『ヌエ』・・・
 ヌエを・・・助けて・・・くれ・・・」

私はその場に留まってもいられず、木刀を手に外へ飛び出した。あの神獣さんが言っている事が現在進行形だとすれば、その『ヌエ』さんが今、この林に迷い込んでいる可能性が高い。
そして、あの神獣さんがボロボロの状態だった理由も・・・何となく察する事ができる。

ビー!!! ビー!!! ビー!!! ビー!!!

しばらく林を走り回っていると、鳥達の異様な鳴き声が北西の方向から聞こえる。そこには丁度、私が生活の支えにしている小川がある場所。
もしその場所を荒らされてしまうと、一気に生活が困難になってしまう。水は人間にとって、大切な『生命維持の源』だから。
そして鳥達の奇声と同時に、様々な動物達が北西の方向から逃げて行く。どうやら、今まで私が相手をしていた飢獣とは、比べ物にならないのだろう。
一心不乱に逃げ惑う動物達の姿を見れば、それはすぐに分かった。ただこの林を管理する身として、黙って見ているわけにもいかない。
私は駆け抜ける動物達を交わしながら北西へと向かう。