そして、変化したのはシナノ様だけではない。シーズさんは、もう自分の生い立ちや過去について述べる事に、何の抵抗もない様子だった。
恨まれる事も蔑まれる事も覚悟の上で、頭を地面に擦り付け、長い間その体制のまま謝罪を続ける。でも、それをカバーしてくれたのは、他ならぬヌエちゃんであった。
ヌエちゃんは必死に彼を弁解した。彼も彼なりに惨めな生活を送っていた事、新たな時代に進む為には、過去の偏見や価値観は捨てるべきである事を、皆の前でプレゼンする。
でも、誰も彼を責めようとはしない。むしろ、「よく話してくれたね」と、彼の潔さに感心していた。
そう、もう皆にとって、『魔法』や『魔術』も散々だった。『過去の戦争』も『敵対心』も、もう散々だったのだ。
世界の荒廃を通じて、皆は身に染みて理解したのだ。今こうして生きている事が、どれだけ奇跡なのか。生きる事が、どれだけ大変であり、どれだけ活気に満ち溢れているのか。
そして、生きる為には無駄な価値観や敵対心は捨てるべきである。そうしないと、いずれ自分自身を破滅へ導く。
この林に住んでいる人々は、出生国もバラバラだし、価値観もバラバラ。でも、そんな事は大して問題にはならなかった。同じ人間である以上、生き抜く手段も、生き抜く為の知恵も一緒。
それに、これ以上歪み合いを起こしたとしても、利益は一つもない。勝てば土地が広くなるわけでもないし、無駄に人手が減ってしまうと、後悔するのは勝った側の人間。
だからこそ、変な敵対心や価値観を持たない方が、争い事も起きないし、無駄に資源や魔力を消費しない。ただでさえ今もまだ資源や魔力が安定していないんだから。
皆の意見を改めて聞いたけど、、やっぱり古龍討伐に皆が賛同してくれた。そしてこの教会からベヒモス大国までの往復は、真の姿となったシナノ様が、私達を背中に乗せてくれるそう。
そして、私が貰った精霊さんの剣にピッタリ収まる鞘も、元・兵士の住民からプレゼントされた。元・兵士さんが持っていた剣は、バラバラにして資源として再利用するらしい。