「・・・でも姉さん、ベヒモス大国までは、どうやって行けばいいの?
 林の周りはずっと荒野だし、そこを往復するとなると、色々と持っていかなくちゃいけない物
 も多くなるし・・・」

「確かに、今のベヒモス大国の跡地は、荒野と全く変わらない。我々人間が、荒野に滞在できる
 時間も限られる。そうなると、持久戦に持ち込まれた時点でこちら側の負けは確実。
 短時間且つ的確な方法ではないと、母は倒せない。下手すれば、ベヒモス大国の跡地へ辿り着
 く事すら、ままならない可能性も・・・」

「それなら心配せんでもいい。

 この日の為に、私はずっと魔力を溜め込んできたのだからな。」

「・・・え?」と私達が言うまもなく、シナノ様の体は、先程の精霊さんと同じく、輝かしい水色に光り出した。
しかし先程とは違い、眩しい光に包まれながらも、シナノ様の輪郭はしっかり見えていた。だが、その輪郭にも異変が起こる。
まるで沸騰する水の様にモコモコと揺らぐシナノ様の体は、徐々に大きくなっている。そしてその姿は、あっという間に小川の大きさにまで膨れ上がった。
その姿は、明らかにあの『古龍』に似ている。しかし、古龍と化したシーズの母とは程遠い程、シナノ様の御姿は白銀に光り輝いていた。
鋭利な爪は水晶の様に透き通り、波打つ様にテラテラと靡く鱗は、海風に撫でられる大海を連想させる。銀色に光る瞳は、鋭い眼差しで私達を見据えていた。
白銀の御髪は、まるで鱗雲の様に生え揃っている。周りでその様子を見ていた動物達は、次々に頭を下げ始める。
今のシナノ様は、自然の美しさを体現した様な御姿だ。丁度朝日に照らされるその神々しいお姿に、私も無意識に頭を下げていた。
ヌエちゃんはというと、自分が召喚主だというのに、口をパッカリと開けたまま、その場で立ち尽くしている。シーズさんは、まるで子供の様な興味津々の目つきに変わる。
触れる事すらも烏滸がましいと感じる程の、まさに『獣の神』と呼ぶにふさわしい姿。シナノ様はズカズカと私達に近寄って来るけど、凄すぎて逆に引いてしまう。