「・・・そこの男も、あの古龍によって人生を縛られていたんだ。生まれた時からずっと、何の
 自由も与えられなかった、だから他者への関わり方が分からなかった。
 恐らく、ようやく自由の身になれたのは、僅か数年前。それまでの約20年間を、此奴はずっ
 と、母によって縛られていたのだ。」

「っ!!!
 違っ・・・」

シーズさんは目を見開きながら、胸を握りしめた。しかしその目線は、あちこちを泳ぎ回っている。彼は明らかに、『言い訳』を考えている状態だ。
・・・いや、『現実から目を背ける方法』を探している方が正しいのかもしれない。彼にとって、自分の母親がどれだけ無慈悲で横暴だとしても、たった一人の母親。
だからこそ、『母の暴走を止める=母の息の根を止める』という、残され手段から逃亡した。たった一人の母親を守る為に・・・
ただ、何故シナノ様がそこまで彼に詳しいのかは分からない。そもそもシナノ様とシーズさんが面と向かって話をしたのが、これが初めての筈なのに。

「ヌエ、ユキナよ。
 彼はな、毎夜毎夜あの高台で、『自決』か『救済』かを選び続けていたのだよ。」

「・・・えぇ?!!」 「・・・全然分からなかった・・・」

「此奴は必死に声を押さえながら、苦しみ悶えていたのだよ。私の気配にすらも気づかない程、
 彼は迷い続けていたのだ

「母様・・・どうかこの場所にだけは来ないで下さい・・・」

「この林に住む人々は、私にとっても特別な存在なのです。だから・・・だから・・・」

 そう言って、彼は許しを乞うておった。」