私は、泣き叫びそうになっていたヌエちゃんの口を急いで塞いだ。わたしも今すぐこの場から脱げ出したい気持ちに駆られていたけど、何故か私の心とは裏腹に、脳は至って冷静だった。
さっきから見えていた、黒い空の中で光る発光体の正体。それは月でも星でもなかった。その正体は、巨大な『目』
金色に光るその2つの目が、ジロリとこちらを覗き込む。ただ、その姿はあまりにも大きすぎた。今までの飢獣とは比にならない程、恐ろしく禍々し姿をしている。
一言で例えるなら、それは『黒い龍』

ウゥゥゥアアアアアアア・・・

黒い雲を突き破り、林の中にいる私達を覗き見ている『ソイツ』
西洋のドラゴンではなく、蛇の様な見た目の、日本の龍。しなやかに畝るその体には、怪しく光る鱗がビッシリと生えている。その体には四肢があるのだが、その手足も歪な見た目だ。
まるで干からびた人間の手のような、鋭く尖った指先と、釘の様な爪。あれでこの林を抉られたら、ひとたまりもないだろう。
口からは黒い吐息を漏らし、生え揃う牙は、まさに針山の様だった。そのギョロリとした目つきで、私達を見下ろしていた。
そう、まるで美味しそうな食事を目の前に、まだかまだかと目を輝かせている子供の様に。私は言葉を思考を一瞬で喪失、恐怖で気が狂いそうになる寸前だった。
しかし、私達の顔色を伺った黒い龍は、そのまま尾を向けて、何処かへ飛び去ってしまった。諦めたのか、それとも・・・