「イリーナ、すまん! 彼女の勉強を見てやって欲しいと頼まれたが、俺では手に負えん!」

 泣き言と一緒に飛び込んできたのはオニキスと、その後ろからライラが顔を覗かせた。

「酷いオニキス様! オニキス様の教え方が悪いんですよ!」

「なんだと!?」

「だってオニキス様ってば、これくらいのこともわからないのかばっかりじゃないですか! 先生というのはもうちょっと弱者の気持ちに寄り添ってですね? ヴィンス先生を見習って下さい」

「ならヴィンス先生に教わればいい」

「オニキス様、乙女心がわかってない!」

「なんだと!?」

「そんなんじゃモテませんよ。というわけでイリーナ、オニキス先生はだめ。私に勉強を教えて! このままだとわりと真剣に落第する。あの人に呆れられるぅぅぅ……」

 イリーナと和解したライラは心を入れ替えて勉強に励み、実力でヴィンスを振り向かせると言っていた。そのためにも侯爵邸で勉強をみてあげていたのだが……。
 わあわあと押し寄せた者たちは騒ぎ立てる。静かだった研究室はこれまでにない賑わいで、入口はちょっとした渋滞になっていた。

「あの、みんなしてここに集まらないでほしいなーって……」

 早く静かな研究ライフに戻りたい。そんなイリーナの希望は外野の賑わいにかき消されていく。だがアレンだけはしっかりと拾ってくれていたらしい。

「まったく、騒がしいね」

「ひっ!」

 イリーナはつい口元を押えたが、悲鳴を上げたのはどうやら自分ではないらしい。

(あれ? 私じゃない……?)

 アレンの笑顔を見て怯えているのはライラだった。
 不思議に思っていると、そのすきにアレンが扉を閉めてしまう。しっかり鍵までかける手際の良さだ。外からは扉を叩く音がして、それを阻止しようというもう一つの勢力を感じた。何か揉めているようだ。