「俺は誇ってしかるべきだと思うが? 学園を主席で卒業したとしても受賞が叶う人間は少ない」

「私の分もアレン様が喜んでくれたので、私はこれくらいでいいんですよ」

「そうなのか? ならもっと盛大に」

「もういいですから!」

 これが丁度良い具合なのだとしっかり説明しておいた。気持ちは嬉しいけれど。

「なんだか君、人が変わったようだね」

「そうですか?」

 確かにアレン相手に怯えることは減ったと思う。なれもあるが、ライラと和解しファルマンに宣戦布告したことで強くなれたのかもしれない。引きこもりを止めたことも大きな原因だろう。

(あの時のこと、アレン様はあまり訊いてこないよね)

 その日のうちにファルマンについて問い詰められたくらいだ。ゲームについては説明が難しく、イリーナも語ることはなかった。
 ただ彼なりに理解してくれているのだとおもうしかない。ファルマンが騒動の黒幕であり、正体が精霊であることは心得ているだろう。むしろ乙女ゲームについては深く知らないままでいてほしい。
 現実のアレンに目を向けると不満そうな顔だ。やはり説明不足なことが気掛かりなのだろうか。

「以前は俺が独り占めしていたのに、残念だな」

 イリーナの懸念は全くの見当違いである。

「今となっては君を独り占めしていられた時間が恋しいよ」

 アレンの想いはいつもイリーナへ向けられているが、元の姿に戻ってからは以前よりもそれを意識するようになってしまった。これも何かの魔法だろうか。ライラと対峙していた時でさえ、精霊たちが逐一報告してくれたアレンの言葉は心臓に悪かった。

「今日はもう一つ、君に話したいことがあってね。どうしても直接伝えたかったんだ」

 何故だろう。あまり良くないような、訊きたくない部類の話のような、嫌な予感がする。アレンがにこやかに笑っている時は、たいていイリーナにとって分が悪いことだ。
 ところが話が始まる前に研究室の扉が荒々しく開かれた。