感動的な和解にも拍手は起らない。

「えー、君たち本気? もっと思うところあるでしょ? それで済ませていいの!?」

 ファルマンが見たかったのは二人がいがみ合うシナリオだ。だからこそイリーナはライラと和解することでファルマンのシナリオをつまらないものに変えてやった。これでも同じ趣味を持つ転生者同士、傷つけあうような展開は遠慮したい。
 よせばいいのにライラは怯えながらもファルマンに自身の受けた仕打ちを抗議していた。

「よくも騙そうとしたわね!」

「さて、なんのことかな」

「何よこいつ性格悪っ! こんなやつ攻略しないで私正解じゃない」

「さっきから君たちは何を言っているのかな? さすがの俺でも理解に困る」

 ファルマンが困るのならいい気味だとイリーナは笑った。

「貴方に理解されたいとは思いません。ただ、私たちは貴方の思い通りにはならないと知って下さい」

「言うねえ。さてと、これからどうしよっか! せっかくだし俺と戦ってみる? その子の敵討ちにさ」

 好戦的な台詞を持ち出され、見守っていたアレンはイリーナを背後へと庇った。彼にとってはわけのわからない状況だろうに、頭のいいアレンはファルマンがイリーナの敵であることは理解していた。

「大丈夫ですよ、アレン様。私は挑発にはのりません」

 イリーナはファルマンと対峙するためアレンの横から出ていく。

「校長先生。知っていましたけど、貴方は校長に相応しくないと思うんです。とても」

 強調すればファルマンは無抵抗を示すため両手を広げた。

「なら俺のこと、力ずくで排除してみる?」

「嫌ですよそんなの。殴ったって手が痛くなるだけです」

 イリーナはひらひらと拳で追い払う仕草をする。もう痛いのは嫌だった。

「だったら愛し子ちゃんはどうするのかな?」

 目を輝かせて答えを待つファルマンに教えてやろう。

「貴方につまらない生活をあげます。貴方からもらったこの力で、私は貴方をその場所から引きずり落とします」

「それって、この学園の校長になるってこと?」

「はい。後輩たちのためにも貴方みたいな人を校長でいさせたくないんです」

 退屈な生活。これがファルマンにとっても最も効果的なダメージの与え方だとイリーナは考えた。もちろん今すぐには無理だけれど、時間をかけてでも叶えてみせる。精霊には莫大な時間があるのだから付き合ってもらおう。

「……それは楽しみだな。愛し子ちゃん」

 出来ないとはファルマンは言わなかった。イリーナの力は買ってくれているのか、それとも本当に楽しみにしているのか。それは彼にしかわからないことだし、理解したいとも思わなかった。