「え? その子、俺の愛し子じゃないよ」

「え? だって、そんなはず……」

 主人公が愛し子でなければゲームのシナリオが変わってしまう。イリーナは素早く背後のライラを振り返った。

「ちょ、あ、貴女、六歳の時禁じられた森で精霊と会ってないの!?」

 イリーナの問いかけに少し考えてからライラは答える。

「禁じられた森って、家の裏にあったあの森? あの森立ち入り禁止なんだから入るわけないじゃない」

「真面目か!」

 つまりここにいるライラは加護を受けていないということになる。
 理由は分からないが、イリーナから向けられている眼差しが呆れだという事はライラにも伝わっていた。

「う、うるさい! 真面目で何が悪いのよ! そうよ、私は真面目なんだから。真面目に、真面目に頑張ってるのに……どうしてこんなに成績が悪いのよぉ!」

「は?」

「主人公なのに精霊の声は聞こえない。力は弱くて勉強にもちっともついていけない。攻略対象とはぜんぜん会えなくて、大好きなヴィンス先生にまでもう少し勉強を頑張りましょうねーって呆れられて……全部イリーナのせいなんだから! 引き立て役のイリーナがいないから私はだめだめなんだぁぁぁ……!」

 完全に逆恨みである。どうしたものかとイリーナは悩むが、見物しているファルマンのためにも平和的でつまらない解決にしてやろうと思った。

「ライラ、立って下さい」

「うるさい! 貴女に何がわかるのよ。貴女はいいわね。どうやったか知らないけどアレン様に愛されて幸せで! 私なんて成績が悪くて馬鹿みたいに騙されちゃってさ。好きな人にも呆れられて、結ばれる結末もないんだよ……」

「だからどうしたって言うんですか」

「だからどうしたって!」

「貴女の気持ち、全部とは言わないけど少しは分かるつもりです。私だって同じ趣味に人生を費やしたんですよ。けど、ここはもう現実なんです。ゲームじゃない。つまりどういうことか、わかりますよね?」

「え、っと?」

 ライラは困惑していた。

「ルートがないと嘆く必要がどこにあるんですか。ここでなら貴女次第でいくらでも先生をものに出来るのに!」

「――え、うそ、確かに!?」

 希望を見出したライラにイリーナは畳みかける。

「ライラ、落ち込んでたらあれの思うつぼです。立って笑って下さい。この平和的な和解があの人にはつまらなくて一番効くんです。私に協力して下さい」

 イリーナはライラに手を差し伸べ、躊躇いながらもその手は掴まれた。強く握られたそれで彼女を引き上げる。