「凄い凄い。まさか拳で結界壊されるとは思わなかったよ」

「校長先生? あの、嘘ですよね。先生が私を騙したなんて」

 ライラは縋るような眼差しで問いかける。ライラにとってファルマンは、この場で最も信頼出来る相手だった。

「えー、何のこと?」

 とぼけた反応にもライラは喜びかけた。けれどファルマンは期待を裏切る。

「あ、その薬の正体が知りたいってことなら彼女の推理は正しいかな」

 ライラにさえ口調を取り繕うことを止めたらしい。急激な変化にライラはいっそうショックを受けていた。

「そんな……」

 ライラは力なくその場に座り込む。
 ファルマンには嘘を貫き通すことも出来た。しかしそうすることなく真実を明かしたのは悲嘆にくれるライラの顔を見るためだ。

「本当に性格が悪いですね。やっぱり貴方なんて攻略するのはごめんです」

 その瞬間、項垂れていたライラの顔が上がる。

「待って! 隠しってヴィンス先生じゃないの!?」

「ヴィンス先生?」

 教師として登場するサブキャラクターの名だ。苦労性なため疲れた言動が目立つが、真面目で教育熱心な良い先生だ。ファルマンとは違った、正真正銘の教師である。

「違うけど」

「そんなっ!」

 ライラは本日二度目の衝撃に打ちひしがれる。

「わ、私、ヴィンス先生が好きで、大好きで。ずっとルートを探して、きっと隠しだって信じてゲームを進めてた。それで今日まで……あの人のルートないの?」

 ライラの眼差しがみるみる潤んでいく。
 その絶望をイリーナは知っていた。悲嘆にくれるライラには思わず同情してしまう。

「えっと、さすがの俺もちょっと状況呑み込めないんだけど」

「ちょっと黙っていて下さい。大事な話の最中なんです。自分の愛し子が打ちひしがれているのに随分な態度ですね」

 イリーナは見ていられず、気付けばライラを庇っていた。しかしファルマンの口から出たのは思いがけない一言だ。