「この香り、元に戻す成分ではありません。これは人を操るため危険登録されている薬草が使われています」

「何言ってるの。そんなわけ」

「私を信じたくないのならそれでもいい。けど、これが失敗してどうなるかは貴女も知っていますよね? そんなものを人に使うところを見過ごせません」

 たとえイリーナを信じられなくても気付いてほしい。疑問を抱いてほしかった。
 ライラもゲームを経験しているなら思い当たることはあるだろう。

「心を失くすの……?」

 残酷だが、イリーナは真実に頷いた。

「うそだよ。だってそんなの、私、悪役令嬢と同じことをしようとしてた?」

 もう一度頷くイリーナに、ライラは先ほどよりも深刻な表情を浮かべている。それは正しくゲームを知る人間の反応だ。

「悪役令嬢やりたいなら変わってあげますよ」

「私、そんなつもりじゃなくて!」

「なら、どんな理由があったんですか?」

「私はただ、あの人と幸せになりたかっただけ! でも悪役令嬢がいなくて、全然上手くいかなくて、どうしていいかわからなくて。誰にも相談出来ないし……」

「それでファルマンに利用されたんですか」

「ファルマン? えっと、校長先生?」

 校長の名に戸惑うライラはこのゲームの真相を知らないのだ。

「フルコンプした私が教えてあげます。貴女はファルマンの楽しみのために利用されたんですよ」

「嘘よ! そんなの、悪役令嬢の言葉を信じられるわけが」

 ライラがなおも言い募ろうとした時だ。その人は絶妙なタイミングで場を引っ掻きますために現れた。

「ね、俺のこと呼んだ? 名前が聞こえたから出てきちゃった!」

 やはりどこかで見ていたファルマンが深刻な空気を台無しに、我が物顔で発言する。