軽い音を立てた結界は一撃で消滅する。

「な、殴った!?」

「ファルマン殴る練習よ!」

「は、はあ!?」

 同等の力をぶつければ相殺出来ると確信していたが、拳を使ったのは治まりきらない怒りのせいだ。つまり勢いである。
 本気で殴った拳はひりひりするがけれど、もう一度手で掌を受け止めていた。標的を思い浮かべると威力が増す。

「私、そんなに人前に出られない顔ですか?」

「え? いや……」

 ライラの言葉は全て精霊たちが中継してくれている。便利なものだ。

「太るっていうか、縮んで……じゃなくて、リナちゃんがイリーナ!? なんで子どもになってんの!?」

「悪役令嬢やりたくないからに決まってるでしょう!」

「意味わかんないんだけど!?」

「それはこっちの台詞よ! 貴女ちゃんと隠しルートやったんですか!?」

「な、何よ急に、そりゃ……やってないけど……」

「やってないんですか!?」

「しょうがないじゃない! やる前に人生終わっちゃったんだから! だから隠しルートに入るためにもイリーナがいないといけないんでしょう? シナリオが狂うから私……ってイリーナも転生者!?」

「それは今どうでもいいんです。貴女自分が何をしようとしたか、わかってるんですか?」

「何よ偉そうに! 私は貴女の悪事を正そうと」

「悪事? 悪事ですか……」

 イリーナはずかずかと結界の領域に踏み込んだ。あの結界は時間と場所を指定して張られたものだろう。一度破壊してしまえ二度は効力を発揮しない。
 イリーナは気圧されて隙だらけのライラから瓶を奪い取る。

「ちょっと!」

 蓋を開け、香りを確かめる。