「こんなに言っても信じてくれないなんて……やっぱりアレン様、あの女に魔法を掛けられているのね」

「何を言っている」

 アレンはもはや不快さを隠そうともしなかった。大切な人を貶められ、その気持ちさえ疑われては黙っていられない。

「でも大丈夫。私、魔法を解く薬を見つけたの! これがあればアレン様も元に戻るわ」

「君はイリーナへの気持ちが作られたものだと言うのか」

「だってそうでしょう! ヒーローが悪役令嬢を好きだなんて言うはずがない!」

「……時間の無駄だな。俺は失礼するよ」

 アレンは我慢の限界だとその場から立ち去ろうとした。しかし目の前に空間の歪みを感じる。

「気が付いた? 簡単には破れない、強い結界よね。今日この時のためにお願いをして張ってもらったの。さあアレン様、この薬を飲んで!」

 ライラが取り出した瓶は封をしていても感じる邪悪さを放っていた。けれど彼女は気付いていないのか、大切そうにそれを抱えている。

「そうだ、イリーナは本当はどうしているの? 学園に通わないのは人前に出られないような見た目だから? もしかして、屋敷から出られないほど肥え太ってる? でもそんなことでゲームからリタイアなんてさせない!」

「俺の大切な人を悪く言うのはやめてもらおか」

「またそうやってイリーナを庇う! それがおかしいの! どうやったか知らないけど、あの女はアレン様に愛されるようなキャラじゃない。アレン様があの女を愛しているなんて言うはずない!」

 ライラは感情的になっていた心を静めた。

「でも大丈夫、私が元に戻してあげるの。だから、次に質問した時はちゃんと答えて?」

(私の望む答えを。ゲーム通りのアレンでいてくれるよね? そうすれば私だって――)

 望むものに手が届く。ほら、あと少しで……

「待って、ライラ!」

 ライラは結界の外に幼女の姿を見つけた。