(悪役令嬢が身体が弱くて入学を見送った?)

 そんなことあり得ない。傲慢なイリーナのことだ。学園に入学することが億劫になったのかもしれない。そう考えて、どうにか彼女の兄に接触を果たした。
 オニキスは毎日のように授業が終わるなり帰宅する。これでは親睦を深めるすきもない。やはり得られた情報に噂以上のものはなかった。
 今度はイリーナの婚約者候補に接触した。ゲームでは常にイリーナを嫌悪する描写があったので、彼なら自分の欲している答えをくれると信じていた。
 なのに結果は……
 壮絶のろけだった。あり得ないがまた起きている。

(悪役令嬢なんだから、人の心を操ってるとか?)

 イリーナは魔法薬に精通していた。でなければアレンがイリーナを相手にのろけるはずがない。ゲーム知識があるため真相にたどり着くのは簡単だったと彼女は自分を褒めたくなった。
 その足で彼女は魔法を解く方法を探して回った。教師の間を渡り歩き、手がかりを探してバザーにまで顔を出す。そこで見つけたのが呪いを解く薬だ。

(これで全部元通りになる!)

 ただし薬の発動には条件があるらしい。特定の条件下でなければ効果は薄いそうだ。
 まだ行動を起こす時ではないと言われても燻り続けていた衝動は消えない。彼女は悪役令嬢の素行を見定めようと侯爵邸に向かった。そこで目にしたのは幼女に対する非道な行いだ。

(やっぱりイリーナは悪役令嬢だったんだ! 王子のアレンを要にみんなを惑わしてる。私がこの薬を使えばリナちゃんのことも助けられて、みんながイリーナを糾弾する。そうしたら私はちゃんと主人公になれるんだ。あの人とも……!)

 この国の王子を手にかけてただで済むはずがない。次に彼女の兄を元に戻そう。実の妹の行いを知れば仲間になってくれるはずだ。
 そうすればこの不遇な生活も終わる。もう一度正しくゲームを始めよう。そうすれば望むものが手に入る。彼女はそう信じていた。