……――ナ。

 ――リーナ。

「アレン様!?」

 自分を呼ぶ声に反応して周囲を見回す。けれど校舎に人影は無い。どこかで校門に置き去りにしてしまった兄が探しているのだろうか。けれど兄の声とも違う気がした。

 ――イリーナ。おいで。

 ――こっち、こっちだよ。

 注意して耳を傾けなければ消えてしまいそうに儚い。けれどその何かは必死にイリーナに声を届けようとしている。

「もしかして、これが精霊?」

 自然豊かな学園は精霊が集まりやすい。優しい光はイリーナのそばに寄り添い、励まそうと飛び交った。

「アレン様のこと、教えてくれるの?」

 ――ファルマンの愛し子。こっちだよ!

(本当に私ファルマンの愛し子だったんだ……)

 精霊たちから呼びかけられたイリーナは複雑な気持ちになった。いざ他人から現実を突きつけられると切なさが込み上げる。しかしファルマンから得た力が阻止する糸口になるのなら喜んで使わせてもらう。